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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6675号 判決

原告

吉井聖子

被告

西野純治

主文

一  被告は、原告に対し、七六万四〇五〇円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二六分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二〇〇九万四八二九円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、原動機付自転車を運転して交差点を右折しようとした際、対向して直進して来た被告の運転する自動二輪車に衝突され、負傷したとして、被告に対し、不法行為に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1は当事者間に争いがなく、2は甲第二号証及び弁論の全趣旨により、3は甲第三ないし第八号証及び弁論の全趣旨により認めることができる。

1  被告は、平成五年二月一〇日午前九時四五分ころ、自動二輪車(なにわも六一七五、以下「被告車両」という。)を運転して、大阪市平野区瓜破西一丁目八番九四号先の交差点(以下「本件交差点」という。)を西から東へ向けて直進するにあたり、本件交差点を東から北へ右折しようとした原告運転の原動機付自転車(大阪市東住吉九五二五、以下「原告車両」という。)に被告車両を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告が前方の注視を怠り漫然と本件交差点を直進した過失により発生したものである。

3  原告は、本件事故により、骨盤骨折、左股関節中心性脱臼の傷害を負い、平成五年二月一〇日から同月一五日までの間藤田回生病院に、同日から同年六月二〇日までの間大阪厚生年金病院にそれぞれ入院し、また、同月二一日から平成六年四月四日までの間大阪厚生年金病院に通院して治療を受け、同日症状固定の診断を受けた。

二  争点

原告は、本件事故によつて、左股関節可動域制限、左大腿近位外側に約三〇センチメートルの皮膚瘢痕、骨盤の変形による高度の産道狭窄の各後遺障害を残し、これらは、自賠法施行令二条別表障害別等級表(以下「障害別等級表」という。)一〇級一一号、一二級一四号、九級一六号に該当すると主張する。

被告は、原告の右後遺障害の主張を含め、原告の損害について争うほか、本件事故の発生には原告にも八割を下らない過失があるとして、過失相殺すべきである旨主張する。

第三当裁判所の判断

一  原告の後遺障害について

1  甲第六ないし第八号証によれば、原告は、症状の固定した平成六年四月四日に左股関節の運動可動域について測定をしたところ、屈曲が右一四〇度、左一二〇度、外転が右四〇度、左三〇度、内転が右三〇度、左が二〇度であつた(自動運動・他動運動とも同じ。)ことが認められる。右によれば、原告は、左股関節にある程度の運動可動域制限があることは認められるものの、健側である右股関節の八割程度までは運動が可能であるから、股関節の機能に障害を残したものとは認められない。もつとも、甲第一二、第一三号証によれば、原告は、就労時や日常生活において股関節に疼痛が生じることが認められ、右は、障害別等級表一四級一〇号に該当する後遺傷害であると認められる。

2  甲第六ないし第八号証、第一二、第一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、骨盤骨折に対する観血的手術を受け、そのために左大腿近位外側に長さ約三〇センチメートルの皮膚瘢痕が残つたことが認められる。右は、露出面の醜状ではないが、右瘢痕の長さ及び原告が女性であることに照らすと、障害別等級表一四級に相当する後遺障害であると認められる。

3  甲第八、第九号証、第一二、第一三号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、骨盤が骨折後変形治癒し、そのため産道狭窄を来していることが認められ、右は障害別等級表一一級一一号に該当する後遺障害であると認められる。

二  原告の損害について

原告は、本件事故により、次のとおりの損害を受けたものと認められる。

1  治療費等 三万四二八四円(請求どおり)

甲第三号証、第五号証によれば、原告は、大阪厚生年金病院での治療費及び文書料として合計三万四二八四円を負担したことが認められる。

2  逸失利益 一二八一万〇九六七円(請求二三八三万八七六五円)

甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四六年八月生まれで、平成四年五月から関西ヌードルに事務員として勤務し、本件事故当時は一か月当たり一六万円程度の給与の支払を受けていたことが認められる。そうすると、原告は、本件事故に遭わなければ、症状の固定した二二歳から就労可能と認められる六七歳までの四五年間にわたり、少なくとも平成五年賃金センサス・産業計・企業規模計・学歴計・二〇ないし二四歳の女子労働者の平均年収二七五万七三〇〇円を取得することができたものと認められる。そして、前記後遺障害に照らせば、原告は、本件事故により右期間中労働能力の二〇パーセントを喪失したものと認められるから、右期間に相当する年五分の割合による中間利息を控除して原告の逸失利益を算定すると、一二八一万〇九六七円となる(円未満切捨て)。

計算式 2,757,300×0.20×23.231=12,810,967

3  慰藉料 六〇〇万円(請求一〇四八万円)

(入通院二四八万円、後遺障害八〇〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するには六〇〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

三  過失相殺について

甲第二号証、乙第一号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件交差点は、南北に通ずる道路と東西に通ずる道路が交差する信号機により交通整理の行われている交差点で、東西道路は、制限速度が時速六〇キロメートルとされ、左折及び直進用車線が片側各三車線あるほか、更に東行、西行ともに本件交差点手前に右折車線が設けられていること、本件事故当時、東西道路の東行車線には北側の第一車線を除いて渋滞のため多数の車両が停止した状態であつたこと、被告は、被告車両を運転して東行の第一車線を走行し、対面信号機の青色表示を確認して時速約五〇ないし六〇キロメートルで本件交差点に進入しようとしたところ、進路右前方約二一・一メートルに原告車両を発見したが、回避するいとまもなくそのまま原告車両と衝突したこと、一方、原告は、本件事故当時、西行の右折車線から北へ向けて右折しようとしていたが、東行車線の車両が渋滞のため停止しており、対向する貨物車両が進路を譲つてくれたので時速約一五ないし二〇キロメートルで右折を開始したところ、対向して直進してきた被告車両と衝突したこと、原告は被告車両と衝突するまで被告車両が接近していることに気付いていなかつたことが認められる。

そうすると、原告は、本件交差点を原動機付自転車で右折するに際しては道路交通法三四条五項による二段階右折の方法によるべきであつたのにこれに違反したうえ、東行車線が渋滞していたため対向してくる車両はないものと軽信して本件交差点を右折しようとしたため本件事故に遭つたものと認められ、右のような事情のもとでは、本件事故の発生については原告に八割の過失があるというべきである。

四  結論

以上によれば、原告の損害は一八八四万五二五一円となるところ、甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記二1の治療費のほかに、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から原告の治療費として九六万円が支払われていることが認められるから、右損害にこれを加算すると、合計一九八〇万五二五一円となる。そして、これより過失相殺として八割を控除すると三九六万一〇五二円となり、更に原告が自賠責保険から後遺障害分として支払を受けた二三一万七〇〇〇円及び前記治療費分九六万円を控除すると、残額は六八万四〇五〇円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は八万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、七六万四〇五〇円及びこれに対する本件事故の日である平成五年二月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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